都心の住宅街の路地をぬけた先に建つ住宅である。幹線道路にほど近いが、そこを絶えず行き交う人や車の喧騒とは対照的で、低層の静かな住宅地の中にぽかんとひらけた空が印象的な敷地であった。少し歩くと公園や小さなプレーパークがあり、生い茂る緑や子どもたちの遊ぶ声が感じられる環境にある。 この場所に建て主夫婦はLDKや寝室、水回りといった一般的な「家」の部分と、LDKと同程度の広さをもつ夫婦の仕事場「アトリエ」をつくることをイメージしていた。
路地を引き込むように、道から少し奥まった建物中央に玄関ホールを設け、1階の東側に仕事場、2階の西側にLDKを配置した。それぞれに大きな気積をもたせ、平面的にも断面的にも2つの大きな空間が互い違いになる構成となった。また、それらを繋ぐギャラリーと呼ぶ曖昧で余白のような居場所を上下の階に計画し、「家」と「アトリエ」を自然に混ざり合わせながら全体をかたちづくっていった。1階は天井高2mに抑えた洞穴のようなギャラリーを抜けて仕事場へと続くのに対し、2階はホールの吹抜けと連続し大きな開口を通して外部に繋がる、明るく伸びやかなギャラリーとしている。どちらも猫の居場所になる窓辺のベンチや棚を設え、あるときには静かに本を読む場所になり、あるときには仕事の打合せスペースにもできる、モノとコトを包み込む空間である。「家」と「アトリエ」が、ギャラリーを介して時間や季節によって伸び縮みし、屋内・屋外相互との多様な距離感が生まれる。もしかしたら職と住の場が将来的には反転することもありえるかもしれない。 そんな大らかさと力強さをもち、様々なスケールの居場所を内包した重層的な広がりを目指している。
設計: 廣戸 海渡
施工: 株式会社楽家
構造 : 木造2階
敷地面積 : 109.62㎡
延床面積 : 141.00㎡
竣工:2023年7月
エリア: 東京都